東日本大震災から4年経ちましたが、震災の影響による子どもたちの心身反応や行動面の変化はまだまだ続いています。一方で、学齢、地域、家庭環境、子どもの性格などに加え、周囲の対応によっても回復度合いに違いが出てきています。今後ますます複雑化、多様化する子どもたちのストレス反応に対して、学校や家庭での「心のケア」がますます重要になってきます。ここでは、被災地の学校現場でよく聞く質問・疑問にお答えし、今後起こりうる「心身反応と意味」、「対処法」、子どもの心の問題の解決に向けて取り組んだ「実例」をご紹介します。

 *当コーナーは、文部科学省「平成26年度緊急スクールカウンセラー等派遣事業」の委託を受け編集しました。

Q&A

被災したにもかかわらず、以前と変わったところは全く見受けられず、かえって心配です。時間が経ってから何らかの症状があらわれることなどあるのでしょうか?
子どもは保護者や教師に心配をかけないように、頑張って元気に振る舞うことがあります。表面的には落ち着いても、フラッシュバックに苦しんでいたり、よく眠れないなどの悩みを抱えたりしていることもあります。症状が出ていないのではなく、つらい状態を口に出せず、一人で抱え込んでいるのです。こうした状態が続くと、深刻な場合、PTSDやうつ病を発症することもあり得ます。こうした子どもに必要なのは、震災に関連することを少しずつ表現していくことです。適正な時期に、安心できる空間でトラウマ体験を語らせることは、「心の傷」からの回復を進め、ストレス障害のリスクを減らす一助になるでしょう。

  

震災後、家庭での態度がとても乱暴になりました。 被災した影響があるのか年齢的なものかの判断がつきません。どう対応すればいいでしょうか?
PTSDは、年齢や性格によってさまざまな症状となって現れます。幼児では赤ちゃん返り、小学校低学年では授業中に落ち着かない、高学年では乱暴な言葉遣いや荒れた態度、中・高生になると、人との衝突、引きこもり、など。大切なのは、「何がその子をイライラさせてしまうのか」という子どもの真の悩みを一緒に突き詰めて考えることです。まずは、子どもが怒りやイライラの感情を持っているということを認めてあげましょう。しかし、乱暴な言葉遣いや暴力があったりしたときは、毅然とした態度で叱り、感情にまかせた言動は間違いだということを分からせることが大事です。

  

震災後、特に変わった様子は見られませんでしたが、学校でのストレスチェックで高い点数が出たようで心配です。家庭ではどんなことに注意すれば良いですか?
震災後に家庭が経済的に苦しくなったり、仮設住まいなどで生活環境が変わったりした子どもたちには、目立った不調がなくてもストレスを抱えているケースがあります。保護者や教職員に心配をかけないように、頑張って元気に振る舞っているのです。このような場合、家族間のコミュニケーションをしっかりと取り、一緒にストレスに対処していく姿勢を示すことが大切です。狭い空間でもできる、ちょっとした遊びやリラクセーションなど、日常ストレスの解消に有効な方法を学び、子どもと一緒に実践してみるのも良いでしょう。

  

震災の影響で父親が失職し、経済的に厳しくなりました。いろんな場面で子どもに我慢させているのは分かっているのですが、文句一ついません。いつか爆発しないかと心配です。
被災地では、子どもが親のがんばりをみて、余計な負担や心配をかけないようにと、自分の意向や感情を抑えていることはよくあります。それまで抑え込んできたものが、表に出るときに、問題行動となる場合もありますが、逆にこのような時こそ、子どもの心の中の思いをつかむチャンスです。しっかりと家族間でコミュニケーションを取るようにしてください。特に、進路や進学など将来につながる大事なことを決定する時期であれば、子どもが「震災のせいで・・・」と後悔することのないように被災者に向けた授業料免除制度や奨学金制度などの活用も考慮にいれ、やりくりできないかと前向きに話し合うことが大切です。




避難先で子どもが心を開かずに閉じこもっているように感じます。大丈夫でしょうか?
震災直後に友だちと共通の体験を語り合うことなく引っ越したり、転校したりした子どもは、町の復興の経過も間近で見ていないため、いつまでも被災時の地域の姿が残っていて、強制的に「回避反応」を起こされている状態になっている可能性があります。こうした子どもに必要なのは、トラウマ体験を整理する作業です。つらかった体験を周りの人も自分も認め、トラウマに関連する言葉を見聞きできるようにします。映像を見たり、これまで避けてきた場所に一緒に行ったりし、段階を経て子ども自身が徐々に整理できるようサポートを心掛けてください。

  

津波注意報等のサイレンを聞き、体が震えたり情緒不安定になったりする子どもへの対応を教えてください。
注意報のサイレンを怖がる子どもにはサイレンは「津波が来る音」ではなく、「命を守る音」だと話してあげると、子どもたちはぐっと落ち着きます。その上で、津波に限らず注意報などのサイレンは本来、自分たちの身を守るために必要な情報だということをしっかり教えます。例えば、海を怖がる子どもには低学年であれば、海が出てくる昔話を紙芝居や絵本で見せることからチャレンジするのもよいでしょう。ちょっとした工夫で、子どもたちが自らのつらい記憶を乗り越えられるよう促しましょう。

  



震災によって引っ越してきた子どもが、故郷のことでからかわれたり、いじめられたりします。どのように対応すればよいでしょうか。
いじめに関しては、大人同士の対立やいさかいなどを、子どもたちが目にして影響を受けていることが少なくありません。まず大人が放射線に関する正しい知識を得て、子どもたちへ伝えることが重要です。いじめられている子どもは、「親を心配させたくない」、「先生へ相談したことが知られると余計に悪化する」などの思いから、人に打ち明けられない場合が多いので、小さなサインにも気がつけるように、教職員や保護者は常にアンテナを張っておきましょう。いじめに気づいたら、いじめられる側だけでなくいじめる側に話を聞くことも忘れてはいけません。本人はいじめているつもりがなくても、結果的に相手を傷つけてしまっている場合もあります。相手の立場も尊重しつつ、率直に自分の意見や気持ちを適切な方法で表現する「アサーティブ」な言い方などを紹介してみてください。